笠井君の恋


 とある田舎の中学校。同級生である笠井君(仮名)が、何故か人気アイドルとなり、都会へと旅立った。
 笠井君は、この田舎の中学校と都会の中学校の両方に籍を置き、仕事のスケジュールを鑑みながら通学している。両方に籍をなんて無理だけど、夢だから出来るのだ。でも、やはりそこはアイドル。忙しさから、なかなか田舎中学には顔を出さなくなり、「っか〜、あいつ最近いい気になっとる」「田舎を馬鹿にしとる」と言われていた。
 しかし、なんだか、このところ笠井君、田舎中学によく現れるようになった。何故か?それは最近同じクラスの芳村さん(仮名)にフォーリンラブしたからみたい。私は別に仲良くないのに、何故か彼に「恋の相談」を受けてしまう。幾度となくやりとりされる相談メール。
 私は、彼には言えないのだが、本音では「芳村さんかぁ…無理めの女だよなぁ…」と思っていた。
 だってどうも、芳村さんの好みのタイプは“イケメンの不良さん”みたいだ。都会人には今時よもやと思われるだろが、田舎にはまだヤンキーの需要があるのだ。そして、まんまと供給もされ続けているんだ。一方笠井君は、純朴系というか…なんというか…親しみのわく顔立ちだ。どうしてアイドルとして成立しているのか、全く分からない。芸能人で言うとえなりかずきが雰囲気近い感じ?たぶん面食いの芳村さんにとっては、笠井君など眼中に無い、そもそも彼女の人生の中に存在してない、といったところだ。
 仕事忙しいみたいなのに、いそいそと現れる笠井君に、けなげさ・せつなさを感じ、「やめとけ」とは言えず、いつも「頑張ってね」と心にも無い返信をする私。そのうち笠井君が「告白する」と言い出した。私はあわてて「いや、もうちょっとアピールしてからの方がいいんじゃない?ただでさえ笠井君、仕事でなかなか芳村さんと会う機会ないんだからさぁ。まずはもうちょい仲良くなりなよ〜」と、懸命に彼を止めた。しかし彼は忠告を聞かず、玉砕した。再び田舎中学に顔を出す回数が減った。
 しばらく後、笠井君のお母さんと電話で話す機会が会った。「うちの息子もね〜。一時期、あれ?よく帰ってくるようになったな?と思ったんだけど、最近はなかなか。また忙しくなったのかしら、ま、いいことだけどねぇ〜」と言っていた。私は、また、せつなくなった。

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 むろん、リアルワールドでは、笠井君はアイドルじゃないし、芳村さんとのフラグも私の恋愛相談も無かった。
 笠井君頑張れ!芳村さん元気かなぁ?