ノワキ様を求めて


 人里はなれた森の中の博物館に着いた。前の車の後についてゲートを潜ろうとするが、なかなか進まない上に入り口が狭いので怖い。
 ずっと車内に座っているのに飽き飽きしていた裕香ちゃん(仮名)と千佳ちゃん(仮名)は待ち切れず、先に降りて駆け出していく。ずっとお手洗いにも行けなかったしな!私も降りたいよ…。私は車内に残った浅国(仮名)に話しかけた。
「ねえ、浅。ちょっと運転代わってよ。」 
「なんでですか」
「私じゃ駐車場に停められないから。道路を普通に走るだけなら出来るけど、駐車場に停めたりバックしたり、とにかく難しいことは無理」
「それがなんで難しいんですか。だいたいなんの為に教習所通ってたんですか、その免許証は飾りですか」
「うん、飾りだから代わってください」
 どうやらここは本来のゲートじゃないらしい。前の車は間違って入ってきたにもかかわらず、階段状になった坂を強引に下って向こうへ抜けてしまった。
「ほら、あんなの私じゃ無理だからさぁ」 「係りの人はここは駄目だって言ってます。引き返せ、って」 「前の車はそのまま行ったのに!あいつらも引き返させろよ!」 「…もういいから、さっさとバックしてください」
 私達はなにもこんな博物館に来たかった訳じゃない。長い道中に休憩を兼ねて、遠く車内から偶然見えた此処に立ち寄っただけである。最終的な目的地は、浅国の岐阜の実家だ。正確に言うと、浅の実家にお祀りしている“ノワキ様”に会いに行くのだ。
 ノワキ様…「野分」だろうか、それとも「野の脇」だろうか。どういう文字で表すのかは分からないが、浅国の家で代々大事に祀ってあるという、お地蔵様のような姿のナニカ。神様なのかな?よく分からない代物だ。私達はどうしてもノワキ様に会わなければならなかった。理由はこの夢の中では提示されていない。私は心の中で呟いた。
 …とにかく、ノワキ様に会わなければ…。
 ふと気が付くと、場面がすっとんでもう名古屋近辺に着いている。夜も更けた。今日は此処で宿を探して、早朝に出発することにした。千佳ちゃんはここらあたりの出身なので、活き活きと案内してくれる。
「何が食べたいですか?そこの店は人気ありますよ、そっちの店も。右手の店は、まる一日じっくり低音で揚げた手羽を食べさせてくれます。目の前にある油溜めから引き上げてくれるんで、アツアツですよ」

「まる一日!?肉がアブラアブラしちゃうんじゃないの?」
「ええ、アブラアブラしてるんで個人的には勧めませんけど、名物だから一度くらいいいかも。左手の店は丸い球体の肉が珍しがられて人気です。何の肉かは分かりません」
「ねえ、ここいらって名古屋コーチンだかなんだか知らないけどカリっとした手羽先が有名なのかと思ってたけど」
「本来はそうですよ。ココ一帯だけ変な店が集まっています。磁場がおかしいのかな、風景もちょっとぼやけてるでしょう?」
 言われてみれば色彩もおかしく、なにやら紫がかった不思議な風景が広がる。
「まあいいよ、とにかくどっか入ろう」
 飛騨高山風と銘打った建物のアブラアブラした店に入って、皆で囲炉裏と油壷を囲む。私は心の中で呟いた。
 …とにかく、ノワキ様に会わなければ…。  ――(はてな夢日記