ガクラン姿の悪代官


 中学校なのか高校なのか年齢設定がよく分からないけど、若者たちが集うどこかの学校の学年末。しかし季節は夏(…外国なのか?)。夏の強くてキラキラ(ギラギラ?)した日差しのためばかりでなく、休みに入る嬉しさと興奮で、皆の顔は一様に明るい。
 ホームルームが終わって廊下に出る私の耳に「学年最後の日だ!みんな、プールで泳ぐぞ!」という、隣のクラスの担任の叫び声が聞こえてきた。彼は体育教師なのだ。しかし、自由に泳がせてくれるならまあ良いのだが、その教師は授業のごとくバシバシと25メートル競泳をさせそうなイメージなので“うわあ、大変そう…可哀想…”などと考えながら、私は廊下にある「ご自由にお持ち帰りください」という張り紙のついたラックに映画のチラシが置いてあったので、1枚1枚漁っていた。(私は以前、映画を観に行くたびバカバカとパンフレットを買っていたのだが、お金はかさむし部屋に余計なものがたまって狭くなるしで、パンフの代わりにチラシ収集で我慢することにしたのだ。そして観た映画だけ別に纏めてファイルしている。結局、今は山のようなチラシが邪魔になっている。)
 チラシをあさる私の横を、隣のクラスの生徒たちがきれいに整列してプールに向かって行進をはじめた。ああ、このぶんだとやっぱり競泳ってオチかな?と思いながら彼らを見送っていると、廊下の先にキャイキャイとじゃれ合う男女の姿があった。男子生徒は知らない人だが、女生徒側は小学生の頃よく遊んでもらったひとつ年上のカナッポ(仮名)だ。
 耳をすますと男子生徒はニヤけた声で「来年度は、同じクラスになれたね」みたいなことを言っている。何故だか既にクラス割が発表されたらしい。はにかみながらキャピキャピモード(矛盾?)のカナッポ。しかし私は素直に「良かったね、カナッポ」とはとても思えない。だってカナッポの向こうにチラリ垣間見えた「嬉しいよ、楽しみだよ」と囁く男子生徒の微笑みが、とても若者には見えない邪悪な笑みだったから。カナッポ、そいつは駄目だよ、あからさまに悪役だよ…。(最後まで捕まらないような物凄い悪役、とか、ラスボス・恐怖の大魔王って感じじゃなくて、時代劇でちゃんと最後に裁かれるような悪。でも正義の味方が登場してチャンバラシーンになるまではそれなりに(「出あえ出あえ!切り捨てい!」とか言える程度には)権力もあって、黄金色の菓子とかもらったり着物の帯を引っ張って町娘をコマ回ししたりしちゃうような雰囲気。)顔も笑みも悪代官のイメージそのものだ。心の中で叫ぶ。“騙されてる、騙されてるよカナッポ!”
 私は二人を見つめながら、カナッポを心配して悶々とするのだった。  ――(はてな夢日記