サーカスが行く その壱

 全体的に、朝の連続テレビ小説のような雰囲気の夢だったと思う。…と言っても朝のテレビ小説をろくに見たことのない私の至極勝手なイメージなのではあるが。延々と淡々と続く、昼ドラほどドロドロしていない、というのか。

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 恐竜時代は大戦前夜(?)。
 街から街へ、異色のサーカスが公興の旅を続けていた。異色、と言っても、扱う芸自体はごくありふれたものだ…空中ブランコやピエロのコミック、動物のショーや、玉乗りや、梯子を使ったバランス芸など。ただ、サーカスの動物達が少々変わっている。ライオンや虎など、いわゆる猛獣に当たるものとして、種類・学術名などはよく分からないながら「恐竜」が使われていた…まあ、ちょっと大きなライオン、という程度の大きさなので、恐竜と言っても小型種だろう。
 また、他の動物はカメやさかな等、海の生き物だ。ただしどういう原理か、さかなと言っても空を泳ぐので、ショーをするのに差し障りは無い。
 このサーカスにはガクラン姿の応援団が随行していた。彼らはサーカスの中でその名の通り「応援」「演舞」という、一般的に応援団と聞いてイメージされる事をするのは勿論、ショーの幕間に一発芸をして間を持たせたり、呼び込みをしたり、サーカスの機材を運んだりするという役割を果たしていた。
 私もこの応援団の、吹奏楽団の一員として旅を続けていた(この設定は学生時代の部活動から直結する)。



 とある街で公演を終えた我々は、サーカスのテントを畳んでいた。夕焼けにテントの影が長く伸びた。ショーが無事終わったことへの皆の安堵感、談笑、喧騒。
 ふと、隣に歩いて来た大川君(仮名)が呟いた。
 「このサーカス、いつまで続けられるのかな…」
 遠くにガクラン姿のまま機材を担ぐ伊井嶋君(仮名)や過元君(仮名)たち、彼らが歩く土手や、運搬用トラック、その全てが赤く染まるのを私はぼんやり眺めながら、大川に聞き返す。特に答えを求めるつもりもなかったが。
 「…なんで?」
 大川は私のやる気のない相槌を気にすることなく、言葉を続けた。「だってさ、そういうご時世だろう」そういうってどういうだよ、と考えながら、もう私は黙ってテントに向かって歩いていた。さぼってんなよー、と伊井嶋君たちが遠くで叫んでいるのが聞こえた。


 「サーカスが行く その弐」 http://d.hatena.ne.jp/taoyameburi2002/20051021/p1 へ続く。