RPGもどき

 自分達がロールプレイングゲームの登場人物という設定らしい。しかし特に何を目的とした冒険なのかもよく分からないし、戦う敵も出てこず、勿論ラスボスも居ない。勇者だとか魔法使いだとかの役割分担も無い。淡々といろんな場所を移動する。
 第一部
 ワタ(仮あだ名)と笠原先輩(仮名)と私でパーティーを組んでいる。
 同級生の祥子ちゃん(仮名)も一緒に組んでいた気がするのだが、途中から彼女はマイクを持って「冒険の実況中継アナウンサー」と化し、さらに、その正体はデビュー当時の超可愛かった頃(今も美人だと思うが)の西原理恵子である事が分かる。(おそらく、当時の西原理恵子氏と祥子ちゃんの容姿や、美人の割に破天荒な言動を、私が無意識に重ね合わせているのではないかと推測する。)山や河原などの、アウトドアライフが主体。苦労の末、山小屋に辿り着き、祥子ちゃんが実況中継する。

 第二部
 第一部のパーティーを解消し、新たに私と久我ちゃん(仮名)と絵里ちゃん(仮名)が組んだらしい。今度のパーティーは主に村・街中を移動する(勿論旅の目的は不明)。
 宿屋に泊まりたいが、女子供の集まりと馬鹿にされ、泊めてもらえない。困った私達を唯一迎え入れてくれたのは、街外れの狂人の小屋だった。
 小屋の本来の所有者は誰なのか分からないが、もう何年も使われておらず、その狂人が勝手に住み着いているらしい。街の人によれば小屋は数ヵ月後には取り壊される予定らしかったが、我々はそれまでには街を出るはずだし、宿屋に追い返された以上、当面、雨露が凌げるだけでもありがたい。それに小屋と言ってもいくつも部屋があり、小奇麗な建物でなかなか快適なのだった。
 …幾日かの時が過ぎ、この街を出て行く日がやってきた。我々は狂人に別れを告げた。
 が、何故か突然狂人は怒り狂い、「ウガー!!ウガー!!」と叫びながら斧を振り回し、壁を壊し始めた。暴れるあまり狂人のカツラが空を飛び、彼の毛髪が思いのほか薄い事が判明したが、そんなことは気にする余裕も無い。久我ちゃんも絵里ちゃんも突然の出来事に驚愕と恐怖で固まっている。私も訳が分からないながら、何とかこの場をやり過ごさねば!と働かない頭をフル回転させ、「自信は無いが、私達が出て行くのが寂しいのかな?」とアタリをつけて、とりあえず媚を売りながら彼に語りかけ始めた。
 「おじちゃん、ダメだよ。斧を振っちゃダメだよ。壁を壊しちゃダメだよ。この小屋はもうすぐ取り壊されるって言うけど、それまではおじちゃんのモノだよ。壁を壊したらおじちゃんが気持ち良く使えなくなっちゃうよ。そんなのダメだよ。小屋を綺麗に使って、おじちゃんが気分良く過ごせなきゃダメなんだよ。
 おじちゃんありがとう。私達をここに置いてくれてありがとう。宿屋の人も街の人もみんな私達なんか勇者じゃないって馬鹿にして、助けてくれなかったよ。泊めてくれたのはおじちゃんだけだよ。おじちゃんは優しいね。私達、おじちゃんに感謝してるんだよ。私達おじちゃんの事忘れないよ。」
 …と、私の言葉のどの部分かがツボに入ったのか、はたまた暴れ疲れたのか、狂人は大人しくなった。しかし久我ちゃんも絵里ちゃんも昔から「自分達に害を成す人間」に対しては非常に冷淡な為、私の決死の懐柔工作にも「ハン、よくもまあいけしゃあしゃあと適当な言葉が出てくるもんだ。まったくよくやるよ」という目をしてこちらを見ていた。「そんな事言ったってさ、殺されるよりマシだろう。場を収めた私に感謝して欲しいぐらいのモンだよ」と、私はひとりごちた。
 機嫌を直した狂人は最後に、膨大なカツラコレクションを見せてくれた。狂人に手を振りながら、私達は街を出発した。

 第三部 
 我々のパーティーはオサレな都会にやってきた。メンバーは変わらず私と久我ちゃんと絵里ちゃんだ。ふと気付くと、我々と同じ方向に進んでいる、別のパーティーが現れた。彼らは20人前後の大人数だ。彼らの会話に耳をそばだてたところ、どうやら、とある大学のゼミ学生で組んだ一団らしい。そういえば若者に混じって、大学教授らしき爺さんが1人混ざっている。
 学生達の道楽か。はたまたこの冒険の成果を学会で発表し、評価を得てウハウハってとこか。「気に入らん。冒険ってそんなモンじゃないだろう!!」と強い憤りを感じるが、そもそも何を目的とした冒険なのかがよく分からないので夢から目覚めて冷静な今となってはあまり説得力がない。が、まあ、とにかくこの若者達が気に入らん。男女入り混じりウキウキピクニック気分♪ってな軽装も気に入らんし、緊張感のない様子も気に入らんし、何もかもが気に入らん。たぶん、古い言葉?でいう「合ハイ」って雰囲気が気に入らんのだろう。冒険ならばもっとこう、リポビタンD的熱い漢の雰囲気が欲しいのだ。
 ――奴らには負けられん。
 ふと我々の横を、奴らの集団が追い越していった。ムカツクなあ!!
 そういえば「小学生の頃の感覚だが、登下校で道を歩いていて、同じ小学生に後ろから追い抜かされるとなんだかムカつく。だからムキになって抜かしかえすと、今度は向こうが意地になって抜かされ返し…という抜かし抜かされのデットヒートが延々と繰り広げられる」というのを、昔、誰だったかのエッセイで読んだ気がする。ああ、私と同じ事をしていた人が居るものだな、というより結構一般的な行動パターンなのかな…と思ったものだ。なにせ私はムキになって抜かし返そうとして、重いランドセルを背負ったまま全力で走って派手に転んだ時の怪我の跡が未だひざ小僧に残っている。
 説明が長くなったが、大学生パーティーの奴らにそのようなムカつく感覚を覚えた私は、久我・絵里を促し、奴らを抜かし返してやった。しかし敵もさるもの、再び我々を一気に抜かしかえした。しばらくデットヒートが続いた。
 幾度目かに我々が奴らを追い抜かしたとき、奴らは立ち止まって「そろそろ昼飯にしよう」と言って、傍らのビルに入って行った。まるで「こんなくだらない勝負、とっとと降りて旨いモン食おうぜ」、といった風情だ。ますますムカツク私。が、我々も腹が減ったのでここらで休憩することに。奴らと同じビルに入った。
 そのビルは、オサレなカフェや小奇麗な洋食屋がたくさん入ったビルだった。が、小さなテナントばかりで、奴らのような20人もの集団がいっぺんに入るような店は無い。ざまあみろ。奴らはとりあえず数人ずつに分かれ、あちこちの店に散らばって行った。
 なにせ小さな店が集まっているだけに、我々もウカウカしていられない。数人ずつに分かれたとはいえど奴らは大人数だ。奴らより先に気に入った店に入らねば、すぐに座れずにあぶれてしまう可能性がある。とはいえ女三人集まれば、「どこでもいいから入ろう」という訳にはいかない。我々は素早く、安くて且つ美味しそうな店は何処か、検討を始めた。
 向かいの店の店員が「Aランチがお勧めですよ」と勧誘する。我々は速攻でその店のメニューを吟味し、なかなか良いではないかここにしようか…と決定しかけたのだが、絵里ちゃんが「待って!コッチのセット、一見デザートのヨーグルトが付いてるように見えるけど、よく見るとヨーグルトはあっちの丼に付いてるものだよ!騙されないで!!」と叫び、ああ危ない、やっぱりデザートは重要よね…とばかりに有力候補にしていた右側のカフェに飛び込んだ。我々の後ろで、分裂して4名ぐらいで行動している奴ら(女学生)が悔しそうに地団駄を踏んだ。
 ここで目が覚めた