人身売買組織と出会う

 私は女子高生で、修学旅行中。女子高生と言っても、その割に登場人物は中学時代の同級生が多い。
 クラス中が乗れるような体の長いラクダの様な生き物の背に乗り、ガイドのお姉さんの説明を受けながら激速で夕暮れの畑の中を駆け抜けたり、1人につき3,500円というラクダ乗り賃のお蔭で自分のクラスの旅行費用(公費)が予定よりオーバーしてしまって、生徒なのにもかかわらずどう対処するか悩んだりしながら、概ね楽しく過ごしている。


 そのうち、一班につき約12〜3人のグループに分かれて自由行動となったようだ。私はタラタラと歩いているうちに、ふと気が付くと前方を歩いていた娘達を見失ってしまった。同じ様にタラタラしていた数人もそれに気が付き、「やばいよ〜急がなきゃ」と皆で一斉に駆け出す。しかし、様子がおかしい。いくらタラタラしていたとは言え、一向に友人たちの姿が見えない。
 三叉路に出てきた時点で我々はうん、とうなずきあって、二手に分かれて駆け出した。何かがおかしい。様子がおかしい。
 前方で争うような気配がする。駆けるが追いつかない。同じ道を選び一緒に駆けていた西野さん(仮名)に、「電話してみよう!」と言われ初めて携帯の存在に気付き、必死にボタンを押す。
 1件目。電話を受けたので名前を呼びかけるも、返事はなく、何か争うような気配がし、別の娘の小さな悲鳴が聞こえる。切れる。
 2件目。電話受けるもすぐに切れる。
 3件目。「おかけになった電話番号は、電波の届かない所におられるか、電源が入っていない為…」
 諦めて、より強い胸騒ぎを覚えながらまた駆け始める。すると海沿いの車道に出てきた。右手が海。車道を挟んで、我々が先を進むのは山沿いの歩道だ。結構先まで見渡せる筈なのに、先には仲間の姿が見えない。なんとなく気力がそがれてきたのか、走り疲れたのか、我々はトボトボと歩きはじめた。


 そのうち、後ろから誰かが駆けて来る気配があった。振り返ると、三叉路で別れたみかちゃん(仮名)だ。私は、彼女の必死な顔つきから何かを感じ、黙って山の側を指差した。そこは丁度工事か何かで、機械などが置いてあり、土地に広く水色のビニールシートが被せてある。我々計4名は速攻、息ぴったりに、えいっとばかりビニールシートの下に潜り込んだ。
 しばらくすると、チンピラと兄貴といった風情の男達、10名ぐらいがバラバラと駆けてきた。「こっちに来た筈なのに…。」我々は息を漏らさないよう、必死で口をおさえる。男達はしばらく辺りをウロウロ。どうかこっちに気付きませんように、と、必死で祈る。そのうち諦めてくれたらしく、撤収の様子が感じられ始めた。助かった、とホッとする。そして男達の会話から、やはり行方不明の同級生はこいつらの組織の仕業である事が分かった。どうやら、この男達は、人身売買組織の人間であり、先に歩いていた娘達はこいつらの仲間にさらわれたようだ。おそらく既にこの車道沿いで、車に乗せられ連れ去られたのだろう。


 男達の会話から、同級生の現在の様子も少し分かった。
 まず、ブサイコのサキちゃん(モデルはないよ!)については、ブサイコが幸いして帰されたらしい。
 その他の娘は概ねシクシク泣いているが、西野さんと仲良しのミキさん(仮名)は気丈に振舞っているようで、「こんなの、西野さんが私達が居ない事にすぐに気が付いて、すぐに捜索してもらえるんだから!」と啖呵をきっているらしい。それを聞いて私の隣にいる西野さんは、声を殺して泣き始めた。私も思わずもらい泣いた。
 ようやく男達が去ってゆき、我々は注意深くビニールシートから出てきた。すると後方から、爆発音が聞こえた。なんだなんだと音の上がった方に行ってみる。それは、三叉路でみかちゃんが進んだ道だった。みかちゃんが進んだ道も海につながっており、彼女はチンピラから逃げる時に、一旦海に飛び込んで難を逃れたのだそうだがその辺りで爆発が起こった跡がある。「きっと、奴らに繋がる目撃者を消す為に…念には念を入れて、奴らが…」と言ってみかちゃんはぶるっと震えた。(一旦捕まったサキちゃんが帰されたという話が矛盾する気がするが、そこは夢。)


 ともあれ、時間的に暗くなってきたこともあり、一刻も早くこのことを知らせる為もあり、我々は団体宿泊先であるホテルに急いだ。海沿いを駆け抜けた。
 ホテルのロビーに駆け込むと、そこは対策本部?みたいなことになっていて、教師達が集っていた。私達はこれまでの経緯を口々に語った。しかし教師の中に1人おかしいのが居て、「人身売買組織にホイホイとついて行くなんて我が校始まって以来の不祥事だ」とか漏らしやがった。私はカッとなって「生徒がさらわれたって事態に、“ホイホイとついて行く”ってなんだ!?」と、くってかかった。続きが気になるがここで終わり。