テニス格闘技の主人公の過去

 これは過日見た夢( テニス格闘技・鬼娘の決意 - 見た夢を淡々と記録するよ )の続き。日が経ってあらかた忘れてしまっているが、覚えている部分をなんとか書いてみる。 (これまでのあらすじ/ポニーテール(仮称)はテニス格闘技に取り組んでいたが、強敵たちに苦戦する。諦めかけ薄れゆく意識の中、他の選手たちも苦しんでいることに気付いた彼女は覚醒。自身の背負った過去を回想し、奮起する。)



 ポニーテールは孤島の貧しい村に生まれた。
 その村では奇妙な風習があった。シャーマンが村人の中から任意で一人、村八分にする者を選ぶ。選ばれたものは常に無視され、居ないものとして扱われる。彼(または彼女)は「鬼」であるとされ、忌み嫌われる存在となる。ポニーテール(当時はおかっぱ)は幼くして鬼に選ばれたため、世話するものもなくひもじく辛い幼少期を過ごした。
 ただし、年に一度の村祭りの儀式では、この「鬼」と村人たちの力関係は逆転する。
 祭りの日、日暮れて黒々と広がる海辺の砂浜に集まった村人たちは、天にも届くかという大きな焚き火を焚く。その火で、身の丈ほどにも大きく丸い奇妙な形の肉――めったに食べられないご馳走らしい――を棒に刺して焼く。そしてシャーマンの老婆が許可の合図を送ると、皆いっせいに肉を貪る。肉が無くなると同時に、今度は「鬼」が村人を襲い貪り喰う権利を与えられ、阿鼻叫喚の殺戮が始まるのだ。
 「鬼」となって幾年か重ねるうち、彼女は儀式を心待ちにするようになる。ある年、いつも通りに火が焚かれ、これから肉を焼こうとするその時、ポニーテールはシャーマンの着物の裾を握り、呟いた。
 「もう食べたいよ」
 シャーマンの老婆は、火に照らされたポニーテールの顔にぽっかり開いた黒い穴が、裂けんばかりに横に広がるのを見る。一瞬ののち、それがニーッと形作られた笑みをである事を理解した老婆は、混乱し、戦慄し、諦め、悟った。
 「わかった。もう始めよう」 村人が叫ぶ「ばばさま、何言ってんだ!まだ肉も焼けてねえ、なんも準備できてねえよ!」
 「わかっとる。だども、もう間に合わね。無駄だ」
 その日の殺戮はいつも以上に残酷で、炎に照らされ村人が逃げ惑う姿が深夜まで見られたと言う。


 恐ろしい存在であるはずのポニーテールであったが、同じ年頃の子供たち――五、六人のグループだった――とは不思議と仲がよく、不便な生活をこっそり助けてもらっていた。古い漫画みたいな顔に美しく成長したポニーテールは、幼馴染たちと共に、このおかしな因習に囚われた村を出てゆく決心をする。
 隠れて作業するのは大変だったが、若者たちはとうとう大きないかだを作りあげた。船出の日、老婆にだけは別れを告げに来る若者たち。老婆は、この程度の船ではおよそ長い航海を耐えられないこと、持ち込める食料も十分ではないこと、そして、食料のない船に「鬼」が紛れていたら何が起こるか…を、容易に推測出来た。思い止まるよう説得しようとする老婆だったが、リーダー格の青年の目を見て引き止める言葉を失った。彼は、いや、「鬼」であるポニーテール以外は皆、これから起こるかもしれない出来事を理解している…。老婆は、因果よのう、といったような意味合いの言葉をもごもごと呟き、若者たちを送り出すのだった。
 夕闇の中、ゆっくり岸を離れてゆくいかだを何時までも見送る老婆の後姿の映像…で、夢、終わり。――(はてな夢日記