私の友は観世流


 知人大勢と、能・狂言の舞台を見に行く。
 能・狂言と言いながら、会場が能楽堂ではない。能舞台の無い、ごく普通のホール。お能じゃなくクラッシックのコンサートとかやりそうな形状のステージだ。だから能楽師狂言師も、とてもやりにくそうだ。
 桟敷席(何故かある)を予約してもらっており、リッチな気分なのだが、見づらい。前方にデカイ奴が座っている。大学の後輩に現役狂言師がいたのだが(後輩と言っても、私が卒業するのと入れ違いの入学だったので学生生活を共にしていた訳でもないのだが)、そいつが妙に成長して、壁を作っているのだ。もともと体の大きな男であったが、2メートルくらいになっている。「なんかタニィ(仮あだ名)ってば、でっかくなってない?」「でかすぎだよ〜」「いいモン喰ってんじゃん?」と、こそこそと裕香ちゃん(仮名)達と文句を言う。
 そのうち「さあ、みんなで(謡を)謡いましょう!」という司会者のセリフが。なんだそりゃ、と思ったが、要はベートーベン第九の大合唱みたいなノリのことを能楽(謡)でやりたいらしい。あるいは「サライ」の大合唱と言うか。ますますなんだそりゃ、なのだが、「謡の経験者も未経験者も遠慮なくステージに上がって一緒に謡おう!勿論ステージに上がりきれない会場の席の人もその場で謡おうね!」という誘導に、桟敷席の仲間達はノリノリでステージに通じる通路に向かい始める(要するにこいつら皆、経験者なので。そういうサークルの)。


 “マジですか。やめようよみんな〜”と思いながらも、取り残されるのは寂しいので私もついて行く。が、ふと“まがりなりにも舞台に上がるのに、しかも能楽師の先生達も居るってのに、こんな普段着でいいの?紋付・袴に足袋でないとヤバくない?”という疑問が。しかしステージ裏に回ると、ちゃんと着替えが用意してあった。ただし、野郎は紋付・袴だが、女性サイズは用意できなかったとのことで簡略版?として黒いワンピースが用意してあった。こんなワンピースでいいのかいな、と思いながらも着替えるが、頭がつかえてなかなか着られない。皆既にステージに上がって行ったので、一人残されて焦りまくり、無理やり頭を突っ込み、追いかけてゆく。ステージ袖から覗くと、係の人が「こっちこっち」と所定の場所を指差してくれて、そこまで歩いてほっと一息。
 が、その所定の場所には(素人は)私しか居ない。なんで?皆、どこ?と見渡すと全く別の場所に綺麗に並んでいる。エエエ!私間違えた?と焦るが、どうやら間違えているのは向こうらしい。皆、知識があるのが逆に仇となって、「本来の作法ではソコに並ぶであろう場所」に自然に向かって行き、ステージマネージャーの指示に気が付かなかったのだ。しかしこれでは私がただ一人間違ったお馬鹿さんに見えてしまう、どうしたものか…と思案しているところで目が覚める。